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デジタルマーケティング

Tシャツとブランディングを考える

コンビニの棚で2,000円しないTシャツと、パリの老舗が売る数万円のTシャツ。どっちも綿でできた、首と袖に穴の空いた布だ。じゃあ、その何十倍もの差額って、いったい何に払っているんだろう? 元P&Gのブランドマネージャーが書いた「ブランディングの教科書」と、企業がブランドに向き合うべき「12の転機」。2本の話を、ファミマとエルメス、ついでにセブン-イレブンまで巻き込んで、ゆるく、でもけっこう真面目に読み解いてみる。

「ブランディング」って、なんかふわっとしてない?

最初に白状しておくと、僕は長いこと「ブランディング」という言葉がちょっと苦手だった。過去の色々な場面、雑誌社との打ち合わせや新しい商品開発、新店舗を出すときなんかの会議で誰かが「そろそろウチもブランディングしないと、広告だけじゃ勝てないよね」と言う。別の誰かが「今回は商品の良さじゃなくて、世界観を伝える動画にしたい」と言う。みんな深くうなずく。でも、じゃあブランディングって具体的に何をすることなの?と聞くと、急に誰も目を合わせてくれなくなる。あの空気、わかりますよね。大手のネット通販会社でも世界中に店舗を持つブランドの会議でさえ同じことが起きてる。

たぶん多くの人の頭の中では、ブランディングって「おしゃれなロゴ作って、雰囲気いい写真撮って、ポエムっぽいコピーを添えるやつ」くらいのイメージなんじゃないかな。で、それが売上にどう効いたのかは、よくわからない。だから経理の人には「それ結局、経費でしょ?」って言われちゃう。わかる、わかるよ。

今回ネタにしたのは、総合商社からP&Gに転職して、ブランドマネージャーをやっていた人が書いた、けっこうガチな「ブランディングの教科書」。面白いのが、本人がいきなり「自分がやってた仕事って、ほんとにブランディングだったのかな?」って首をかしげてるところなんです。

名刺には「ブランドマネージャー」って書いてある。でも実際には、工場の生産のことを考えたり、売り方を考えたり、法務の人と相談したり。世間のいう「ブランディング」からは、だいぶはみ出してた。でも、ちゃんとブランドは作ってた。じゃあ、あれは何だったのか?

で、その人が半年かけて本や論文を読みまくって出した答えが、けっこう痛快なんです。ひと言でいうと、ブランディングって、要は「儲け=付加価値」をつくることなんだよ、と。ふわっとした世界観の話じゃなくて、思いっきりお金の話だったんですね。

あと、もう一本。こっちは「じゃあ会社は、いつブランドに本気出せばいいの?」って話を、12個のタイミングでまとめた記事。社長が替わったとき、会社が合併したとき、人がどんどん辞めていくとき……。「余裕ができたらやろう」は一生来ないぞ、っていう、まあまあ耳の痛いやつです。

今回はこの2本をまとめて、僕なりにかみ砕いてみます。途中でTシャツを並べたり、お茶を並べたり、ドンキの話をしたりと寄り道が多いけど、ちゃんと全部つながってるので、気楽に付き合ってもらえたらうれしいです。けっこう長いけど、許してね。

ブランド=製品+意味や約束。お茶4本で考えてみよう

じゃあ、ちょっとクイズ。「ブランドって何?」って聞かれたら、どう答えます?

たぶん「高いやつ」とか「ロゴのこと」とか、なんとなくぼやっとした答えになる人が多いと思う。辞書を引いても「銘柄。商標。特に高級品として有名な商品」みたいなことが書いてある。間違ってはないんだけど、仕事で使うにはちょっとフワフワしすぎなんですよね。

だって、コンビニで150円くらいのペットボトルのお茶って、どう見ても高級品じゃないでしょ。でも「綾鷹」とか「伊右衛門」は、どう見てもブランドじゃないですか。逆に、名前が付いてれば全部ブランドかっていうと、聞いても何も思い浮かばない商品をブランドとは呼びにくい。

そこで教科書が出してくるのが、この式。

ブランド = 製品 + 意味や約束

めちゃくちゃシンプル。でもこれ、ほんとに使えるんです。

試しに、コンビニの冷蔵庫に並んでるお茶4本でやってみましょう。伊藤園の「お〜いお茶」、サントリーの「伊右衛門」、コカ・コーラの「綾鷹」、キリンの「生茶」。中身は全部「緑茶」。茶葉と水でできた、だいたい同じ色の液体です。でも、僕の頭の中では、こんな式になってる。あくまで僕の勝手なイメージなので、「いや違うでしょ」ってツッコミながら読んでください。

  • お〜いお茶 = 緑茶 + どこで買っても「いつものやつ」がある安心感
  • 伊右衛門 = 緑茶 + 京都の老舗っぽい、ちょっとていねいな一杯
  • 綾鷹 = 緑茶 + 急須でいれたみたいな、にごりのある本格感
  • 生茶 = 緑茶 + 苦すぎない、ゆるっとやさしい甘さ

中身は4本とも「緑茶」。違うのは、右側にくっついてる「意味や約束」のほうなんです。で、僕らはお茶を買うとき、気づいてなくても、この右側を比べて選んでる。「今日はガブガブ飲みたいからお〜いお茶」「お客さんに出すならちょっと伊右衛門かな」みたいに。

最近はどのメーカーも「すっきり」「水みたいに飲める」方向に味やパッケージを寄せてきていて、まさにこの右側の陣取り合戦をしてる感じがします。

となると、ブランディングの意味もスッと決まる。

ブランディング = 製品に、狙った意味や約束をくっつける活動

ほんと、それだけ。広告も、パッケージも、お店のPOPも、インスタの投稿も、ぜーんぶ「この商品にはこういう意味があるよ」っていう席を、お客さんの頭の中で取りにいくためにやってる。そう考えると、急にいろいろスッキリしません?

「意味や約束」って、何を入れればいいの?

とはいえ、「意味や約束」って言われても、なんでも入りそうで逆に困りますよね。どのくらいの細かさで、どんな中身にすればいいのか。実はここ、ブランディングで一番みんなが頭を抱えるところだったりします。

教科書的な答えは「お客さんが受け取る“得”を入れなさい」。いわゆるベネフィットってやつです。マーケの世界で100万回くらい聞く「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルじゃなくて穴だ」っていう話、あれがわかりやすい。この場合の得は「(お客さんは)8ミリの穴をきれいにあけられる」。ポイントは、主語がいつもお客さんってこと。

で、この「得」にも2種類あるんです。

ひとつは、さっきの「穴があく」みたいな、機能的な得。もうひとつは、それを使った結果、気分的にどんないいことがあるか、っていう気持ちの得。カタカナで言うと情緒的ベネフィット。

わかりやすいのがAppleかな。画面がサクサク動くとか、操作がわかりやすいとか、機能的な良さももちろんある。でもそれ以上に、「これ使ってる自分、ちょっとイケてる」「クリエイティブ側の人間っぽい」っていう、あのなんとも言えない気分を買ってる人、多いと思うんですよ。……はい、僕です。

一方で、「得」じゃなくて「商品の特徴」をそのまま看板にしてるブランドもけっこうある。リポビタンDの「タウリン1000mg配合」とか、綾鷹の「にごり」とか。

タウリン1000mgって、正直なんのことかよくわからない。でも「なんかすごそうな成分が1000mgも入ってる!ってことは、二日酔いでも今日なんとかなりそう!」って、勝手に頭の中で得に変換されちゃう。綾鷹のにごりも同じで、お茶が濁ってること自体は別にうれしくない。でも「急須でいれたみたいに、ちゃんと茶葉の味が出てるんだろうな」って、脳が勝手に翻訳してくれる。

こういう「得を信じさせる理由」のことを、マーケ用語でRTB(Reason To Believe)って呼びます。関係をざっくり並べると、こんな感じ。

  • 気持ちの得の理由は、機能の得。テンション上がる(気持ち)、だって二日酔いが治るから(機能)。
  • 機能の得の理由は、商品の特徴。二日酔いが治る(機能)、だってタウリンが1000mgも入ってるから(特徴)。

ただ、特徴をそのまま推すのは、基本的にはあんまりおすすめされてないやり方です。お客さんは特徴じゃなくて、最終的には得を買ってるから。タウリンやにごりみたいに、見た瞬間に得までつながるケースでだけ、うまくハマるんですね。

あと、値段との関係も覚えておくと便利。ざっくり、高くて思い入れのある商品ほど「気持ちの得」が大事になって、安い商品ほど「機能」、さらには「安さ」だけで選ばれるようになる。台所用洗剤に「これ使ってる私、好き♡」って気持ちで買う人、まあいないですよね。でも服は「これ着たら、どんな気分になれるか」で選んでる。

そう、だからこのあとのTシャツの話が、めちゃくちゃ面白くなるんです。

結局、「どう思われてるか」が全部

この章のシメに、たぶん一番大事なことを書いておきます。

意味や約束って、お客さんの頭の中で「そう思われて」はじめて存在するんです。

会社がどれだけ立派なメッセージを出してても、関係ない。お客さんの頭に、結果として何が残ってるか。それだけが勝負。そう考えると、ブランドって会社が持ってるものじゃなくて、お客さんが持ってるもの、って言ってもいいのかもしれない。ちょっとカッコつけすぎかな。でも、わりと本気でそう思ってます。

世の中のブランドって、ほぼ全部が「こんなことで困ってるあなたには、ウチの商品がぴったり!」って叫んでますよね。でも、実際に手に取られるのはほんの一部。なんでかっていうと、お客さんのほうが「いや、それ解決するのにその商品じゃなくてよくない?」って思ってるから。もっと言うと、会社が想定してる「お客さんの困りごと」自体がズレてることも、しょっちゅうある。

P&Gの社内では「Perception is everything(どう思われてるかが全て)」って言葉が、ほぼ合言葉みたいになってたらしいです。二日酔いが治ることじゃなくて、治りそうって思われてることが、買ってもらえる理由になる。身もふたもないけど、ほんとにそうなんですよね。

もちろん、中身がダメなら一回試されたあとに信用はなくなる。だから、ちゃんといい商品を作るのは大前提。そのうえで、狙った意味を、狙ったとおりに相手の頭に残す。

これが、ほんっとに難しい。だからブランディングがちゃんとできる会社は少ないし、できてる数少ない会社は、ずーっと頭ひとつ抜けたまま勝ち続けられる。

じゃあ、それってお金にするとどのくらいの話なの? ってところで、いよいよTシャツの出番です。

ファミマのTシャツと、エルメスのTシャツ。差額68,000円の正体

ブランドをちゃんと管理する仕組みを持ってる会社は、同じ業界の他社より営業利益率が5〜10%くらい高い、って話があります。僕が自分で確かめたわけじゃないけど、感覚的にはめちゃくちゃ納得。で、その利益率を支えてるのは、まあ単価の高さですよね。じゃあ、なんでブランドは高く売れるのか。

ここで、頭の中にTシャツを2枚並べてみてください。

1枚目は、ファミマの「コンビニエンスウェア」のTシャツ。2026年9月に出た、スタイリストの長谷川昭雄さんとのコラボのビッグTシャツで、税込1,998円。ほぼ2,000円。

2枚目は、パリの老舗、エルメスのTシャツ。僕が調べた範囲だと、手頃なものでも7万円台から。モノによっては10万円超え。ここは間をとって7万円にしておきます。

差は、なんと35倍。

どっちも綿の布に、首と両袖の穴が空いてるだけ。なのに35倍。……いや、どういうこと?ってなりますよね。この謎を、さっきの「意味や約束」で分解してみましょう。ややこしい経費の話は全部すっ飛ばして、値段をこう書いてみます。

値段 = 材料費(コットン)+ 加工賃(人件費)+ 利益

まずは材料費。実はTシャツの材料のコットンって、世界中でだいたい同じ値段なんです。綿花はニューヨークの先物市場で取引されてる、ど真ん中の「ふつうの商品」。金とか銀がどこでもだいたい同じ値段なのと一緒で、2026年に入ってからは1ポンドあたり60セント台くらいで動いてる。もちろん産地や品質で多少の上乗せはあるけど、エルメスが買おうが、名もない町工場が買おうが、元値はほぼ一緒。盛りに盛っても、せいぜい数倍の差です。

次に加工賃、つまり人件費。こっちは材料よりはバラつきがある。エルメスはフランスの工房で、腕のいい職人さんが手をかけてる。大量生産の工場とは、給料の水準もかける時間もぜんぜん違うはず。それでも、どんなに見積もっても数倍から10倍くらいでしょう。

ここまでで、材料費はほぼ同じ、加工賃は最大10倍。……35倍には全然届かない。じゃあ残りはどこから来てるのか。

はい、利益です。言い換えれば付加価値。そしてこの部分が、まるっと「ブランドの意味や約束」なんです。式にするとこう。

  • エルメスのTシャツ(70,000円)= Tシャツそのものの値段 + エルメスの意味や約束(利益)
  • Tシャツそのものの値段(2,000円)= 材料費 + 加工賃

下の式を上に入れると、エルメスの意味や約束 = 68,000円。めちゃくちゃ雑な計算だけど、言いたいことは伝わると思う。エルメスのTシャツを買うとき、僕らは布に2,000円、「エルメス」という意味に68,000円を払ってるわけです。いや〜、すごい。

これ、Tシャツだけの話じゃないです。さっきのお茶も、材料は茶葉と水。茶葉は市場で値段が決まるし、水は、まあ水。綾鷹でも伊右衛門でも、材料費は似たようなもんです。加工賃も、同じ国の似たような工場で作ってれば、だいたい同じところに落ち着く。

つまり、会社が儲けのために本当に動かせる変数って、ブランドの意味や約束しかないんです。そしてそれは、利益そのもの。逆に意味も約束もない商品は「ただのモノ」として売るしかなくて、値段は材料費+加工賃にどんどん吸い寄せられていく。これがいわゆるコモディティ化ってやつ。

もちろん、コストを削るとか、短期でできることもある。でも長い目で見たら、儲け続けたい会社はブランディングに本気出すしかない。で、ここからが今回一番話したいところなんだけど、その「本気の出し方」が、エルメスとファミマでまったく違うんですよ。

エルメスって、なんで値上げしても売れちゃうの?

まずはエルメスから。1837年にパリで馬具の工房として始まったこのブランド、ラグジュアリーの中でもちょっと別格の「値段を決める力」を持ってるんです。英語でいうとプライシング・パワー。

材料費や人件費が上がっても、世界の景気が微妙でも、お客さんを減らさずにきっちり値上げを通しちゃう。ふつうの会社なら値上げのたびに「お客さん離れたらどうしよう……」って胃がキリキリするところを、エルメスは涼しい顔でやってのける。で、それがあのとんでもない利益率の土台になってる。

なんでそんなことができるのか。分解すると、だいたい4つに行き着きます。

その1:「手に入らない」をわざと作ってる。 バーキンやケリーみたいなバッグは、すごい技術を持った職人さんが、ほぼ1個ずつ手で作ってる。そもそも大量生産ができない。そのうえで、「欲しい人」が「作れる数」をずっと上回ってる状態を、あえてキープしてる。お金を積めばすぐ買える、ってわけじゃない。この「欲しいのに買えない」っていう飢餓感が、ブランドの値打ちをどんどん押し上げてるんです。

その2:買ったあとも価値が落ちない。 エルメスのバッグって、お店で買った直後から、中古市場で定価以上の値段がつくことも珍しくないらしい。買う側からすると、もう「買い物」っていうより「資産」に近い。株を買うような感覚もあるから、定価が上がっても欲しい気持ちは全然しぼまない。むしろ「また上がる前に買っとこう」ってなる。強い。

その3:お客さんを「育てる」仕組みがある。 人気のバッグを手に入れるには、時計とかジュエリーとか洋服とか食器とかを継続的に買って、お店との関係、いわゆる「実績」を作る必要がある場合が多い、って言われてます。ブランドからすると、バッグ以外の利益率の高い商品も一緒に売れていく。いや、よくできてるなあ……って素直に感心しちゃう。

その4:流行を追いかけない。 多くのファッションブランドがシーズンごとのトレンドを追う中で、エルメスは職人技と伝統がベース。だから「流行遅れになったからセールで売り切ろう」がない。セールをしないから、ブランドの値打ちが傷つかない。船の錨の鎖をモチーフにした「シェーヌ・ダンクル」っていうブレスレットなんて、デザインはほぼそのままで何十年も作られ続けてて、年代ごとのちょっとしたディテールの違いを、マニアが追いかけてるくらいです。

さっきの式でいえば、エルメスは右側の「意味や約束」を、職人の手仕事、手に入らなさ、資産としての信頼、古くならない価値……っていう何層もの要素でガッチガチに固めてる。68,000円の正体は、ざっくり言えばこの分厚い塊なんですね。

ポイントは、どれも商品そのものに宿ってる価値だってこと。誰かに紹介してもらったから価値があるんじゃなくて、モノと、それをつくる仕組み自体が意味を背負ってる。ここ、あとでセブンとファミマの話をするときに効いてくるので、ちょっと覚えておいてください。

1,998円と1,989円。ファミマとセブン、ほぼ同じ値段なのに何が違う?

ちょっと前まで、コンビニの服って「出張先でパンツ忘れた!」とか「急に雨でずぶ濡れ……」とか、そういうピンチのときに仕方なく買うものでしたよね。正直、それ着てデートには行きたくなかった。

その常識をひっくり返したのがファミマ。2020年に始まった「コンビニエンスウェア」は、ブランド「ファセッタズム(FACETASM)」のデザイナー、落合宏理さんがデザインしてるんです。ファッションの最前線にいる人が、コンビニの服をガチで作る。もうそれだけでちょっとした事件。

で、中身もちゃんと事件なんですよ。計算されたシルエット。カルチャーの匂いがする細かいディテール。で、なんといっても象徴的なのが、ファミマのロゴの青・緑・白をそのまま使った「ラインソックス」。

コンビニのロゴカラーって、ふつうに考えたら一番ダサくなりそうなやつじゃないですか。それを逆に堂々と足元に入れちゃった。これがZ世代に刺さって、ソックスの累計販売は2025年2月時点で2,400万足超え。ブランド全体の売上も、2024年度に130億円を超えたそうです。いや、ソックス2,400万足って。日本の人口の5人に1人ぶんですよ。

さらにファミマは、2025年にNIGO®さんをクリエイティブディレクターに迎えて2026年9月には長谷川昭雄さんのレーベル「A.H」とのコラボ第2弾を出した。ビッグTシャツが1,998円、開襟シャツとルーズパンツが各3,990円。発売前から服好きのあいだでざわざわしてた、あれです。

さっきの式に当てはめると、こんな感じかな。

ファミマのTシャツ = Tシャツ + ファッションの最前線にいる人が本気で作った服が、いつものコンビニで買える「えっ!」という驚き

ここで大事なのは、右側の意味が「コンビニだから便利」に頼ってないこと。服好きは「近くて楽だから」ファミマの服を買ってるんじゃない。デザインそのものが欲しくて、わざわざ買いに行ってる。コンビニという日常のど真ん中と、ファッションの最前線。このギャップの大きさが、そのまま価値になってるんです。

で、一方のセブン-イレブン。2026年9月25日から、「ニコアンド(niko and...)」や「ローリーズファーム(LOWRYS FARM)」をやってるアパレル大手のアンドエスティと組んで、全国のお店で服を売り始めました。ニコアンドのTシャツが1,989円、スウェットが3,278円。狙いは、20〜40代の女性を中心に「近所のコンビニで手軽に選べる服」だそうです。

……気づきました? Tシャツの値段、ファミマ1,998円、セブン1,989円。9円しか違わない。でも、作ってる「意味」はたぶんまるで違う。

セブンのTシャツ = Tシャツ + 知ってる人気ブランドの服が、近所でさくっと買える便利さ

ニコアンドもローリーズファームも、ショッピングモールでおなじみの人気ブランド。品質も安心だし、選びやすい。でも、値段はもともとのお店とそんなに変わらないし、「えっ、これがコンビニに!?」っていう驚き、つまりギャップは、ファミマに比べるとどうしても小さい。だから、商品そのものが人を呼ぶというより、インフルエンサーに紹介してもらったりSNSで目に触れさせたり、「外側から」価値を足していく作り方になりやすい。

これ、どっちが正解って話じゃないんですよ。セブンは「便利さ」っていう、コンビニがもともと持ってる意味の延長線上に服を置いた。ファミマは「意外性」っていう、コンビニが今まで持ってなかった意味を、服で新しく作った。同じ2,000円のTシャツでも、作り方が違うと積み上がるものが全然変わる、ってだけ。セブンはまだ始まったばかりだし、ここから化ける可能性だって全然ある。

で、ここでさっきのエルメスを思い出してほしいんです。エルメスの価値は、全部「商品そのもの」に宿ってた。ファミマも同じで、デザインという価値を服そのものに入れ込んでる。値段は35倍違うけど、この2つは「意味を自分で作ってる」という一点で、実は同じチームなんですよね。

まとめると、こう。商品そのものに価値を入れ込むか、商品の外側から価値を足すか。 ブランドの作り方は、だいたいこの2つに分かれる。

高級ブランドでも、コンビニでも、自分だけの意味を持てないと、商品はだんだん「ふつうの値段」に吸い寄せられて、安売り合戦に飲まれていく。だからブランディングは「経費」じゃなくて、ちゃんとリターンがある「投資」なんです。

ライバルから見ると、ブランドって「城壁」なんです

ここまでは自分の会社から見た話。今度はちょっとライバル側に立ってみましょう。

お客さんの頭の中に一回できあがった「意味や約束」って、ライバルからするとめちゃくちゃ攻めにくい城壁になるんですよね。ブランドって、後から来た人を門前払いする、頑丈な壁なんです。

たとえば「コンビニで買える、ちゃんとおしゃれな服」って席を、ファミマがもうがっちり押さえてるとします。後から同じ土俵に入る側が打てる手は、だいたい2つしかない。

  1. 同じ悩みに、別の意味で勝負する。 「おしゃれ」じゃなくて「とにかく機能的」でいく、みたいに。
  2. 別の悩みを、別の意味で取りにいく。 そもそも狙うお客さんを変えちゃう。

さっきのセブンの「近所で、知ってるブランドを手軽に」っていう作り方は、ある意味で2つめに近い動きとも言えるかも。

どっちを選んでも、お客さんの頭の中を動かすには、とんでもない力が要る。商品開発、コンセプト作り、伝え方の設計、広告費。他の会社が何年もかけて積み上げた壁を崩すのは、まあ大変です。

どっちも選ばないなら、残るのは安売り。強いブランドからこぼれたお客さんを拾いながら、薄い利益でしんどい戦いを続けることになる。うーん、つらい。

でも、これを逆から読むとちょっとワクワクしてきません? 自分たちが先に城壁を作っちゃえば、そのしんどいコストを、相手に払わせる側に回れるってことだから。ブランドって、攻めの武器であり、最強の守備でもあるんです。

で、マーケティングとブランディングって何が違うの?

ここまで読んで、「あれ、マーケティングと何が違うんだっけ?」ってなった人、たぶんいると思います。この議論、業界ではわりと永遠のテーマなんですよね。教科書はこんな感じで決着をつけてます。

ブランディングは、広い意味のマーケティングの中に入ってる。そして、せまい意味のマーケティングとは別物だけど、一部かぶってる。

……うん、ちょっとわかりにくいですよね。ひとつずつほどきます。いってみましょう

  • 広い意味のマーケティング:お客さんの困りごとを見つけて、それを解決するまでの流れぜんぶ。
  • せまい意味のマーケティング:商品や広告、イベントなんかでお客さんの印象を動かして、買ってもらう活動。矢印は「会社→お客さん」。
  • ブランディング:お客さんの頭の中に、狙った意味や約束を作る活動。矢印は「お客さん→会社」。

世の中の会社の9割以上で「マーケティング」って呼ばれてるのは、たぶん2つめのせまいほう。もっとせまくて「広告で知ってもらうこと」だけを指してることも多い。それも大事だけど、全部じゃない。冒頭の元P&Gの人がやってた、生産も販売も法務も巻き込む仕事は、1つめの広いほうだったんですね。これでようやく謎が解けた。

ブランディングの矢印が「お客さん→会社」っていうのがミソ。ぐいぐい押し付ける広告(プッシュ型)とは逆で、お客さんのほうから寄ってきてもらう「プル型」に近い考え方です。ただ、狙った意味がちゃんと伝わってないと、プル型は空振りしちゃう。

じゃあ、2つがかぶってるのはどこか。それは「お客さんの頭の中」。お客さんにどう思ってもらうか、という一点では、この2つは同じことをしてる。そして、どう思ってもらうべきかは、お客さんの困りごとを掘り下げると見えてくる。真ん中に「お客さんの困りごと」があって、その周りでブランディングとマーケティングが席を共有してる、ってイメージです。

ブランディングが先か、マーケが先か

どっちが偉いとかはないんです。でも考える順番を聞かれたら、僕はブランディングが先だと思う。

ちゃんと意味づけされた商品は、広告に乗せると飛ぶように売れる。ちょっと専門的に言うと、CVR(買ってくれる率)が上がるから、同じ広告費でも費用対効果がぜんぜん違う。なんなら宣伝しなくても勝手に人が集まってくる。ファミマのラインソックスなんて、まさにそれだったと思う。

逆に、意味づけなしで集めたお客さんは、「安かったから」「たまたま目に入ったから」買っただけ、ってことが多い。だからリピートしない。で、儲けって、ほとんどリピーターが運んできてくれるものなんですよね。

カレー屋さんで考えるとわかりやすい。スパイスカレーが大好きで、自分で調べて、わざわざ電車を乗り継いで来たお客さんは、味に満足すればまた来てくれる。でも、食べ物にそんなに興味がなくて、たまたま空いてたから入った旅行客は、どんなにスパイスの調合に自信があっても、まあ次はない。

とはいえ、ブランドは一日にして成らず。現実には、マーケを続けた結果として、少しずつブランドができていくことがほとんど。だから実際は同時進行になるんだけど、「この商品に、どんな意味を持たせたいのか」って問いだけは、一番最初から握っておくべきなんです。

強いブランドは、どこで会っても同じ顔をしてる

ここからは実践編。まずちょっとした遊びに付き合ってください。

「これは強いな」って思うブランドを、ひとつ思い浮かべてみてください。業界はなんでもOK。で、そのブランドから連想するものを、かたっぱしから挙げてみる。見た目でも、印象でも、浮かんでくる景色でもいい。

教科書の著者は、スターバックスを思い浮かべたそうです。出てきたのはこんなリスト。緑の、自由の女神みたいなロゴ。きれいな店内。明るすぎない照明。長居しやすい机と椅子。Wi-Fi。ビジネスパーソンが多い。禁煙。おしゃれな街には必ずある。店員さんが笑顔で元気。

その結果、彼の中でのスタバの意味は、「ちょっと気分を変えて、1〜2時間集中して仕事できる場所」になってる。実際、この教科書みたいな重めの原稿も、家だと進まないからスタバで書いたんだとか。(書いてる最中もスタバにいたらしい。わかる。)

大事なのは、彼がいろんな街のいろんなスタバに通う中で、毎回同じ特徴を感じて、その積み重ねで「仕事できる場所」って意味を作ってるってこと。もし行く店ごとに雰囲気がバラバラだったら、こんなイメージは絶対生まれない。

つまり、こういうことです。

お客さんとのあらゆる接点で、体験がブレないこと。それが、ブランドの意味を強くする。

ここでいう「接点」は、商品を使う瞬間だけじゃないです。広告を見る、パッケージを手に取る、友達から話を聞く、インスタで流れてくる。ブランドとふれあう、あらゆる瞬間のこと。

たとえば、東京のスタバは落ち着いてるのに、大阪のスタバではパンクが爆音で流れてて、ヤンチャな人たちがたむろしてる……。そんなことになったら、もう「仕事しに行く場所」とは思えないですよね。店ごとにロゴの色が違ったら、知らない街でスタバを探すときに何を目印にすればいいかもわからない。

これ、スタバだけの話じゃないんですよ。

Appleの製品はどれもシンプルで、ボタンや色がごちゃごちゃしてない。Apple Storeは世界中どこでも、天井が高くて、広々して、白が基調で、明るい。コカ・コーラはどの国でも赤いパッケージで、中身は黒。あの「コーラ味」が薄かったり濃かったりしない。(メキシコのコーラが一番うまいけども。)

そして、僕が一番好きな例が、ドン・キホーテです。

どの店に入っても、天井までびっしり積まれた商品。通路はせまくて、先が見通せない。そこらじゅうに黄色い手書きPOPが貼られてて、「驚安!」の文字が躍ってる。天井のスピーカーからは、あの一度聞いたら頭から離れないテーマソングがエンドレスで流れてて、ペンギンの「ドンペン」があちこちからこっちを見てる。そして夜遅くまで開いてる。渋谷でも、地方の国道沿いでも、だいたいこの世界観ですよね。

面白いのは、この一貫性が、ふつうのお店の「正解」とはまったく逆を行ってること。普通は、商品は見やすく並べて、通路は広く、どこに何があるか一目でわかるようにする。でもドンキは、わざと見通しを悪くして、迷路みたいにしてる。「圧縮陳列」って呼ばれてるやつです。

スッキリ整理された広々としたドンキ、クラシックが静かに流れるドンキ。そんなものは存在しないし、存在しちゃいけない。ごちゃごちゃしてることも、どこに何があるかわからないことも、ドンキにとっては欠点じゃなくて、「探してるうちに、つい余計なものまで見つけちゃう」っていう宝探しの楽しさそのものなんですよね。あの天井までの商品の壁は、言ってみればドンキのロゴみたいなもの。夜中に特に用もないのにフラッと入って、気づいたらカゴがいっぱい……って経験、一度はあるんじゃないですか。あれ、全部計算されてるんです。

ブランドとして、お客さんの困りごとを見つけて、それを解決したくなる意味を考える。そのうえで、その意味が全部の接点で思い出されるように、体験をひとつひとつ組み立てていく。そうすると、ブレない体験が生まれて、お客さんの頭の中にじわじわブランドができていく。地味だけど、これしかないんですよ。

ブランドを壊すのは、だいたい「ブレ」

大ヒットするブランドを作れるかどうかは、正直センスと運も絡んでくる。理屈を詰めれば失敗は減らせるけど、大当たりまでは保証できない。

でも、ブランドが壊れていくパターンは、びっくりするくらいどこも一緒なんです。突き詰めると全部「ブレてる」ってことなんだけど、これには2種類ある。

ひとつは、同じ時期に、場所によって体験がバラバラなパターン。A店とB店でまるで別のお店みたい、ってやつ。

もうひとつは、昔と今で言ってることが全然違うパターン。去年は「激辛!」が売りだったカレー屋さんが、今年は「まろやか甘口♡」を推してたら、もう何屋さんなのかわからないですよね。

でもこの当たり前が、実際にはそこらじゅうで起きてる。「あるある」をまとめておくので、自分の会社に当てはめてみてください。ドキッとしたら要注意です。

ビジネスの都合で起きるやつ

  1. 話題作りのために毎月のように新商品を出して、そのたびに本来の意味が薄まっていく。
  2. 同じブランド名でいろんなジャンルに手を広げすぎて、「で、結局何のブランド?」ってなる。
  3. サブブランドを出したら、本家と違う意味がついちゃって、お互いに打ち消し合う。

組織の都合で起きるやつ

  1. ブランドの担当者がころころ替わって、そのたびに方針も変わる。
  2. 頼む広告代理店やクリエイターが毎回違うから、雰囲気が揃わない。
  3. 商品部、営業部、宣伝部でブランドの理解がバラバラで、現場の動きもバラつく。

広告の仕事に関わってる人なら、組織の2つめはちょっと耳が痛いんじゃないかな。でも、ほんとそうなんですよね。

野村克也監督の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」って言葉がありますよね。まさにそのとおりで、負ける原因をひとつずつ潰していくことが、結果的に勝つ確率を上げていく。

とはいえ、会社である以上、人事異動はなくならないし、売上を伸ばすには新商品も出さなきゃいけない。じゃあそんな中で、どうやってブランドを守るのか。次の2つの章で見ていきましょう。

これだけは変えちゃダメ、っていう7つの芯

ブレちゃダメなのはわかった。じゃあ、何をブレさせなければいいのか。全部そのままだと、コピーもCMもタレントも一生変えられない。でも実際、有名なブランドだってCMは毎年変えてますよね。

つまりブランドには、「変えちゃいけない芯」と「どんどん変えていい見せ方」がある。芯がずっと同じだから、見せ方が変わってもちゃんと同じブランドとして伝わる。で、その芯の中にも「1〜2年では絶対触らないけど、3〜5年では時代に合わせて見直すべきもの」も含まれてる。

教科書は、その芯を7つにまとめてます。この7つさえ守ってれば、あとは見せ方でどんどん遊んでも、飽きられずに一貫性を保てる。

  1. ブランドの目的
  2. ブランドが戦う市場
  3. お客さんと、その困りごと
  4. ベネフィット(得)
  5. POD(他にない強み)
  6. ブランドキャラクター
  7. ブランドアイコン

ひとつずつ、ゆるっと見ていきましょう。

1. ブランドの目的

「このブランド、なんのためにあるの?」っていう、一番根っこの答え。ミッション・ビジョン・バリューとしてまとめてる会社も多いと思います。どんなに魅力的な企画でも、この目的に合ってないならやらない。全部の土台です。

たとえばコカ・コーラは「Refresh the world(世界中をうるおし、さわやかさを届ける)」と「Make a difference(前向きな変化をもたらす)」を掲げてます。

これは短期どころか、よほどのことがない限り変えちゃダメ。目的を変えるって、もう新しいブランドを作るのと同じだから。名前はそのままで中身だけ別物、っていうのは、お客さんを混乱させるだけです。

2. ブランドが戦う市場

自分たちがどこの土俵で、誰をライバルに戦うのか。P&Gなら日用品、コカ・コーラなら清涼飲料、っていうのがふつうの決め方。

でももうひとつ、「お客さんの困りごと」で市場を見る視点も持っておきたい。お客さんの時間やお金には限りがあるから、ブランドはそれを取り合ってる。そう考えると、ライバルは業界の外にもいるんです。

たとえばテレビ局。業界で見ればライバルは他のテレビ局。でも「家でのひまな時間を楽しく過ごしたい」っていう困りごとで見れば、NetflixもYouTubeもInstagramもTikTokも全部ライバル。業界ごと沈んでるときに、業界の中だけでライバルを考えても、答えは出ないんですよね。

コンビニの服もそう。ファミマのライバルはセブンだけじゃなくて、ユニクロであり、古着屋であり、もしかしたら「週末に服を買いに行く」という時間の使い方そのものかもしれない。

市場の決め方は、1〜2年で変えると混乱する。でも3〜5年なら、むしろ積極的に見直したほうがいい。世の中、変わるのめちゃくちゃ速いので。

3. お客さんと、その困りごと

いわゆる「誰に」の部分。ここで何度でも言いたいのは、年齢や性別より、その人が抱えてる困りごとのほうが大事ってこと。教科書の言葉で言うと「WHO(フー)より、不(ふ)が大事」。ダジャレなんだけど、けっこう核心を突いてる。

たとえば、市場を「休日のストレス発散」って捉えたとき、その中に「女友達だけで、人目を気にせず思いっきり叫びたい」みたいな、もっと細かい困りごとが見えてくる。

この「誰の、どんな困りごとか」が、全部のスタート地点。このあとのベネフィットも、PODも、キャラも、アイコンも、本当は全部ここから考えるものです。1〜2年では変えないけど、お客さんも変わっていくので、3〜5年では見直したい。

4. ベネフィット(得)

前半でたっぷり話したやつです。お客さんの困りごとを解決して、どんな得を受け取ってもらうか。機能の得で十分なのか、気持ちの得まで踏み込むべきか。機能で差がつかない業界ほど、気持ちの得が大事になってくる。

気をつけたいのは、主語はお客さんだってこと。台所用洗剤なら、「強力な洗浄力」は得じゃない。「(私は)二度洗いしなくていい」が機能の得で、「(私は)家事がラクになって気持ちに余裕ができる」が気持ちの得。

ベネフィットは、「変わる」というより「進化する」もの。「二度洗いいらず」はそのままに、技術が進んだら「ピカピカに仕上がる」みたいな一段上の得が乗っかっていく感じです。

5. POD(他にない強み)

PODはPoints of Differenceの略。ライバルにはできなくて、お客さんが求めてる強みのことです。これがあるから、そのブランド「だけ」から得を受け取れる。だからお客さんはお金を払ってくれる。

マーケターがよく悩むのが「PODって機能? 得?」問題。例外はいくらでもあるけど、教科書の答えは「基本は機能」。つまりPODは、得を信じさせる理由(RTB)なんです。主語はブランド。さっきの洗剤なら「どんな油汚れも浮かす洗浄力」がPODで、そのおかげで「二度洗いいらず」。Appleなら「直感的に使えるUI」がPODで、その結果「自分までスマートになった気分」が気持ちの得。

PODは開発やエンジニアと一緒に商品側で作るものだから、機能レベルで持っておいたほうが「じゃあ何する?」につながりやすい。そしてPODも進化する。最初のPODを持ちながら、さらに上のPODを積み上げていけるブランドが強い。

6. ブランドキャラクター

ブランドを人にたとえたときの「キャラ」です。人って無機質なものは覚えにくいし、愛着もわきにくい。キャラを持たせると記憶に残るし、好きになってもらえる。それに、どんな口調で話すかの基準も決まる。

面白い人なのか、真面目な人なのか。芸能人でいうと誰っぽいのか。お客さんの顔を思い浮かべながら決めて、決めたら全部の接点でそのキャラの口調を揃えていく。

わかりやすいのが、スウェーデン代表だったサッカー選手、ズラタン・イブラヒモビッチの自伝『I AM ZLATAN』の日本語訳。原文は英語だから、一人称は「僕」でも「私」でもよかったはず。でも訳者が選んだのは「俺」で、語尾は「〜だぜ」。これが「僕は〜です」だったら、あのイブラの俺様キャラが台無しですよね。

ちなみにここでいうキャラは、くまモンみたいなマスコットのことじゃないです。いわゆる「キャラ設定」のこと。マスコットはむしろ次のアイコンの仲間です。キャラも1〜2年では変えず、3〜5年でズレてきたら見直す。ただ、それはもうリブランディングの領域なので、アイコンとセットで変える必要がある。

7. ブランドアイコン

色、ロゴ、デザイン、音、匂い。そのブランドらしさを一瞬で思い出させる「スイッチ」みたいなものです。

街を歩いててマクドナルドだってわかるのは、赤と黄色とMのロゴが堂々と掲げられてるから。これが緑と青のMだったら、たぶん素通りしちゃいますよね。

音や匂いもアイコンになる。くさやの強烈な匂いは完全にくさやのアイコンだし、PayPayで払ったときのあの音もそう。さっきのドンキのテーマソングも、完全にアイコンですよね。

そう考えると、ファミマがロゴの3色をそのままソックスにしたのは、ほんとにうまい。お店の看板という最強のアイコンを、「足元」というまったく別の場所に持ち出して、しかもそれをカッコいいと思わせたんだから。

アイコンも1〜2年で変えちゃダメ。せっかく積み上げた「あ、あれだ」が一気に吹っ飛ぶから。3〜5年なら検討してもいいけど、基本はマイナーチェンジ。スタバのロゴの変え方は、いいお手本です。根っこから変えるなら、ほぼゼロからのやり直しを覚悟して。

以上の7つが、どの接点でも守るべき芯。無意識に決まってたり、自然にできあがってる部分もあると思います。じゃあ、これをちゃんと守って積み上げていくにはどうすればいいのか。

じゃあ、明日から何する?

実践編もいよいよラスト。「理屈はわかったけど、で、明日から何すればいいの?」って声が聞こえてきそうなので、やることを3ステップにまとめておきます。

ステップ0:「これは投資だ」って、決める人と握る

いきなりゼロから始まるのは、これが準備運動だから。でも会社によっては、ここが一番高い壁かもしれない。

あなたの会社では、ブランディングにかけるお金って「経費」ですか?「投資」ですか? もし「経費」なら、ここを飛ばした瞬間、この先はほぼ全部ムダになります。

Tシャツの話を思い出してほしいんです。ブランドって、儲けそのものだった。だったら、お金をかけて価値を生むブランディングは、本来「投資」のはず。株や不動産より確実で、本業との相性は100%。というか、本業そのものですよね。

なのに、なんで「経費」扱いされちゃうのか。理由は2つ。

  1. 会計のルール上、経費(販管費)として計上されるから。
  2. 長い目で見て、リターンがある実感がないから。

1つめはルールだから仕方ない。経理や財務出身の人が決める立場なら、ここを「投資です!」って説得するのはなかなか骨が折れるはず。

問題は2つめ。お財布を握ってる人だけじゃなく、ブランドに関わってる当の本人たちですら、「前にやった施策、ブランドの価値になってる気がしない……」って思ってたりする。「どうせキャンペーン程度の効果でしょ」って。

ブランドの価値が積み上がらない一番の理由は、やっぱりブレ。CMを見てても、毎年メッセージもキャラもびっくりするくらい変わってて、「あれ、これ何のCMだっけ?」ってなること、ありますよね。毎年違う得を、違うキャラで、違うアイコンで伝えてたら、積み上がるものなんてない。毎年、打ち上げ花火一発ぶんの効果しか出ないのは当然です。

逆に、同じ得を、同じキャラとアイコンで伝え続けたらどうなるか。お客さんの頭の中に、少しずつ記憶がたまっていく。8割忘れられても、翌年は2割残ったところからスタートできる。毎年の投資の2割ずつを、お客さんの頭の中に貯金していく。これが、年々強くなっていくブランドの秘密なんです。なんか、ちょっと積立投資っぽいですよね。

もし今それができてないなら、原因は過去のブレか、狙ってるお客さんの困りごと自体がズレてるか、のどっちか。まずは決める人と、ここを握るところから始めてみてください。

ステップ1:ブランドブックを作る

ブランドブックは、ブランドの取扱説明書みたいなもの。これを読めばブランドのことが全部わかる、いわばブランドの自己紹介資料です。形式は自由だけど、複数のブランドを持ってる会社なら、フォーマットは揃えたほうがいい。

作る理由は3つ。

  1. 担当者が変わっても、代理店が変わっても、デザイナーが変わっても、芯がブレないようにするため。
  2. マーケ、営業、広報、宣伝、コールセンター……お客さんと接する全部の部署で、同じ認識を持つため。
  3. 施策を振り返るとき、「ブランド的に正しかった?」を、みんなで客観的に判断するため。

とくに大事なのは1つめ。会社って2〜3年で担当が変わるのが普通だから、個人に任せてると3年ごとにズレが生まれる。7つの芯が3年ごとにグラグラしてたら、ブランドは積み上がらない。だから言葉にして残すんです。

中身は、基本さっきの7つ。そこにブランドの歴史とか、ロゴの使い方のルールとか、商品ラインナップの説明があるとなおよし。ちなみに、特に大事な芯だけを1枚の図にしたものを「ブランドエクイティピラミッド」って呼んだりします。

P&G時代の大先輩には、分厚いバインダーにブランドブックを挟んで、毎日股身離さず持ち歩いてた人がいたらしいです。迷ったらすぐ照らし合わせるために。そこまではやりすぎかもだけど、その心意気はちょっと見習いたい。海外にはサンタクロースのブランドブック(!)なんてものも出回ってて、笑っちゃうくらい真面目に定義されてる。世界中のサンタのイメージがブレないのは、誰かがちゃんと守ってるからなんですね。

ステップ2:お客さんとの接点を全部洗い出して、ブランドブックと照らし合わせる

「お客さんが目にできる戦略は、実行だけだ」って言葉があります。どれだけ立派なブランドブックを作っても、お客さんが実際に見て触れるものがブレてたら意味がない。

じゃあ全部の施策をブランドブックと照らし合わせればいいじゃん、と。理屈はそのとおりなんだけど、ある程度の規模になるとこれがめちゃくちゃ大変。小さいものまで含めれば、毎日なにかしら決まってる。ウェブサイトの文言のトーンがキャラに合ってるか、なんてところまで、行き当たりばったりで全部チェックするのは無理です。

そこで使えるのが、カスタマージャーニーマップ。「知る」から「人にすすめる」まで、お客さんがブランドと出会って仲良くなっていく道のりを、段階ごとに整理した地図です。この地図に乗らない施策は、理屈の上では存在しない。あるとしたら、それはどこにも属さない=いらない施策か、地図の詰めが甘いか。

とはいえ、これでも街にある接点を全部カバーできるわけじゃない。昔の施策が記録に残らないまま街に残ってたり、取引先の都合で自分たちだけでは変えられなかったり。

たとえば、スーパーの飲料売場の冷蔵ケースに、5年前のキャンペーンの伊右衛門のPOPがまだ貼られっぱなし、なんてことは普通にある。でも全国の売場を、ブランドの担当者が一枚一枚把握するのは無理。しかも、どのPOPを使うかは基本お店の判断だから、メーカーの一存では決められない。リアルのお店でたくさん売ってるブランドほど、こういう「どうしても管理しきれない」ところは出てくる。逆に全部ネットで完結してるビジネスなら、このリスクは小さいかも。

でも、サイトのフォントから、パッケージの色、広告の語尾、営業さんのトーク台本まで、全部の接点を地図に照らして確認していくだけで、ブランディングの精度はぐっと上がる。それを何年も続けていくことで、儲けを生む「ブランド」がたまっていくんです。

スタバがあそこまで「スタバらしさ」を保ててるのは、裏でとんでもない労力をかけて、会社ごと取り組んでるから。それを投資にするか、経費で終わらせるか。結局、どこまで本気になれるか次第なんですよね。

で、それって「いつ」やるの? 会社がブランドと向き合う「12のタイミング」

ここまで読んで「よし、いつかウチもちゃんとやろう」って思った人。その「いつか」、たぶん永遠に来ません。「暇になったら部屋片付けよう」が一生来ないのと一緒です。会社も同じ。

ここで、もう一本の記事の出番です。テーマは、会社がブランディングやリブランディングに本気で取り組むべき「タイミング」。結論から言うと、それは思いつきじゃなく、会社の内側と外側で起きる「変化の節目」にやってくる、と。

この記事が推してるのが「パーパスブランディング」って考え方。ちょっと難しそうな名前だけど、要は「自分たちって、なんのためにあるんだっけ?」をちゃんと言葉にして、社内にも、お客さんにも、世の中にも「わかる!」って思ってもらうこと。7つの芯でいうと、一番上の「ブランドの目的」を、会社まるごとで握り直す作業です。

そのきっかけになるタイミングが、全部で12個。内側の節目と、外側の変化に分かれてます。

内側の節目:会社の形が変わるとき

会社のあり方が変わる瞬間は、「ウチは何を大事にして、どこへ向かうのか」を言い直す絶好のチャンスです。

  1. 新しい社長が来たとき。 社内も社外も「今度の人は何言うんだろう」って耳をすませてる時期。メッセージが一番届きやすい。ここで旗を立てれば、「前からそうだから」を断ち切れる。
  2. 合併、買収、独立したとき。 違う文化の会社がくっつく、あるいは独り立ちする。「なんで一緒になるの?」「なんで独立するの?」を言葉にしないと、現場はモヤモヤしたまま。
  3. 新しい中期経営計画を作るとき。 数字が並んでるだけの計画に、「なんでこっちを目指すのか」って気持ちの軸を通す。そうすると、計画が「紙の上の計算」から「自分たちの話」になる。
  4. 上場するとき。 お金を集めるだけじゃなく、「世の中に開かれた会社」として見られる瞬間。目先の数字だけじゃなく、長い目でのストーリーを見せられれば、投資家にも採用にも効いてくる。
  5. 周年のとき。 これまでとこれからをつなぐ、めったにない節目。記念パーティーだけで終わらせず、「これまで何をしてきて、これから何をするか」を宣言すれば、社員の誇りが次のエンジンになる。
  6. 社名を変えるとき。 会社の「顔」が変わるとき、社員ってけっこう不安になるもの。その不安を「未来への誇り」に変えて、「私たちは何者で、どこへ向かうのか」を世の中に名乗り直すチャンス。
  7. 事業が大きく変わるとき。 新しい事業を始めたり、急に大きくなったりすると、部署や世代で「何のためにやってるんだっけ」がズレやすい。変わる理由とその先の未来を、一本の旗にまとめる必要がある。

外側の変化:世の中やお客さんが動いたとき

世の中が求めるものは、いつも動いてる。昔うまくいったやり方も、気づけばじわじわズレていくんですよね。

  1. 人が採れないとき。 今の求職者は、給料や待遇だけじゃなく、「そこで働く意味」をけっこう要る。「ここで働くと、こんないいことがあるよ」を作り直して、共感で選んでもらえる採用ストーリーが必要。
  2. 人が辞めていくとき。 待遇をいじるだけじゃ解決しない、「ここで働く意味がわからない」って問題。会社の存在理由を言葉にして、一人ひとりの仕事とつなげることが、定着に効いてくる。
  3. サステナビリティへの対応を迫られたとき。 「言われたからやってます」の形だけの対応から抜け出して、「自分たちはどんな世の中を作りたいのか」を軸にした戦略に変えるチャンス。
  4. 今の事業が頭打ちになったとき。 市場が成熟して、機能や値段だけじゃお客さんの心が動かなくなったときこそ、「何を売るか」じゃなく「なんで存在するのか」を問い直すとき。
  5. 事業を立て直すとき。 お金の立て直しを迫られてるときって、つい数字ばっかり見ちゃう。でも「なんでこの事業を続けるのか」を正面から言葉にすれば、社員がまとまって、お客さんの信頼も取り戻せる「再起動」になる。

こうやって並べてみると、11番の「今の事業が頭打ち」って、まさに今のコンビニ業界そのものじゃないですか。お店はもうあちこちにあって、おにぎりやコーヒーだけじゃなかなか差がつかない。そこで各社が、服という新しい分野に手を伸ばしてる。そのとき「なんでウチが服を売るの?」って問いにどう答えたかで、ファミマとセブンの違いが生まれてる、とも読めるんですよね。

この記事のシメもなかなかいいんです。パーパスブランディングは、一回大金をかけて終わりじゃない。会社の成長や時代の変化に合わせて、ちょうどいいタイミングで「原点」と「これから」を組み直し続ける。それが、長く戦える力になる。

社内で進めようとすると、「今は他に優先することがあるから」「費用対効果が見えないよね」って壁に、ほぼ確実にぶつかる。だからこそ、この12のタイミングを「今やる理由」として使う。そして、どれくらいのリターンがありそうかと、どうやって実行するかをセットで見せる。そうすれば、ふわっとした理念じゃなくて、ちゃんとした「投資」として受け入れてもらえるはずだ、と。

前半の教科書が「ブランディングは経費じゃなくて投資だ」と言い、後半の記事が「その投資には、ベストなタイミングがある」と言う。2本並べると、話がきれいに一本につながるんですよ。

さいごに。ブランドの始まりは、牛の焼き印でした

「brand(ブランド)」って言葉は、焼き印を押すという意味の「burned」から来てる、って言われてます。昔の牧場では、自分の家の牛とよその家の牛を間違えないように、焼き印を押して区別してた。それがブランドの始まりなんだそうです。

たぶん、こんな感じだったんじゃないかな。「あの焼き印の、トムさんちの牛って、肉がジューシーでうまいらしいよ」。噂が広まって、トムさんの牛に人が集まって、値段が上がって、トムさんはちょっとお金持ちになって……。実際にそんな話があったかは知らないけど、まあだいたいそういうことでしょう。

焼き印そのものは、ただの印。でもその印に「うまい」っていう意味がくっついた瞬間、ただの牛が「トムさんの牛」になる。2,000円のTシャツが「ファミマのTシャツ」になる。綿の布が「エルメス」になる。ブランドの正体って、結局この「意味や約束で、ほかと差をつけること」に尽きるんですよね。

今やってることの先に、自分たちが望む「違い」が生まれていくなら、それは最高。そのまま突き進めばいい。でも、もし今のままじゃその先に何も見えてこないなら。そのときは、思い切って動いてみるしかない。社長が替わるとき、周年を迎えるとき、人が辞めていくとき。12のタイミングは、たぶん思ってるよりしょっちゅうやってきます。

コンビニの棚に並ぶ約2,000円のTシャツと、パリの老舗の7万円のTシャツ。その差額68,000円の正体は、布でも糸でもなくて、何年もかけてブレずに積み上げてきた「意味」だった。そう考えると、近所のコンビニに寄るのも、ちょっとだけ楽しくなってきませんか。

さて、長い話に付き合ってくれてありがとう。とりあえず今度の週末は、あのロゴカラーのソックスでも買いに行ってみようかな。いらないけど

ちなみに僕が10年以上前からいってた渋谷の瑞兆はかつ丼が1,000円から2,000円に値上がりしてた.
これはブランドなのか、はたまたインバウンドも絡んだ別のおはなしなのか、、僕らのビジネスのヒントが隠れている気もするので、また考えてみます。

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